?香川大学 医学部
教授 岩部 美紀
代謝生化学、病態生化学、代謝学、糖尿病学
2025/8/1 掲載
研究内容の要点(概要)
私達の研究室では、「健康長寿」をキーワードに、糖尿病や肥満関連疾患などの代謝性疾患に対する新しく画期的な予防法?治療法?診断法の確立、治療薬の創出、食事や運動に関するプロジェクトを進めています。
例えば、糖尿病や肥満関連疾患の原因となる膜受容体AdipoRや脂質代謝酵素PLAAT ファミリーなどについて、その機能や活性化メカニズムを解明し、これらを標的とした創薬や予防法の確立に挑んでいます。また、AdipoRをはじめとする新しいタイプの膜受容体が担う生物の普遍的なシグナル伝達機構や、複数の触媒機能を併せ持つ脂質代謝酵素によるオルガネラ分解の制御機構と疾患?生体機能との関連を明らかにし、新たな学問分野の創成にも繋がる挑戦的プロジェクトにも力を注いでいます。
また、健康長寿を目指す上で、食事も重要です。例えば、「赤身肉の過剰摂取が大腸がんのリスクを高める」と言われていますが、その背景にある分子レベルの仕組みは十分に解明されていません。私達は、このメカニズムを明らかにするための実験に取り組んでおり、現在、科学研究費助成事業 基盤研究(B)を中心に推進しています。
さらに、運動は、健康に良いということはよく知られていますが、その分子メカニズムの全貌は明らかになっていません。さらに世界的に運動不足が深刻な問題となっており、運動を継続することが難しいという現実もあります。そこで私達は、運動を正確に測定できるウェアラブルデバイスの開発や、運動量に比例して血中濃度が変化するような新しく画期的な運動バイオマーカーの探索を行っています。さらに得られた膨大なデータをAIと組み合わせ、運動を数値化?見える化を進めています。こちらは、ムーンショット型研究開発事業(プロジェクトマネージャー:南学 正臣教授(東京大学))や科研費の国際共同研究加速基金(国際先導研究)(研究代表者:染谷 隆夫教授(東京大学))などの競争的資金のプロジェクトを通じて推進しています。
研究を始めたきっかけ、魅力
私は香川県出身で、香川県立高松高等学校在学中、進行中だったヒトゲノムプロジェクトに魅了され、「ヒトの全塩基配列が解かれ、生命が解明されるなんてすごい。遺伝子の研究がしたい。」と思ったことが研究者を志すきっかけでした。生物担当の魅力的な先生との出会いから理学部生物学科に進学し、「実験には向き不向きがある」と教わり、向いていなければやめればよいと軽い気持ちで始めましたが、達成感を得ることが好きな私は、気づけば、小さな成功から新しい発見まで、多彩な達成感を味わえる研究者としての道を走り続けていました。研究の魅力は、面白さとワクワク感、そして終わりなきScienceの探求にあります。
今後進めたい研究
私達は「Translational biochemistry」実践を目指し、基礎から臨床、既知から未知への橋渡しを通じて、健康長寿の実現に挑みます。糖尿病や肥満関連疾患などの原因分子解明と創薬、運動バイオマーカー探索、食事と疾患リスクの分子機構解析など、多角的に推進します。AIやウェアラブルデバイスを活用し、運動不足の解消や生活習慣や社会環境に深く関わる疾患予防にも取り組みます。国内外の臨床教室、工学?農学?薬学系のみならず経済学などの文系も含む異分野や産業界、行政や地域との連携をさらに拡大し、健康長寿に貢献すると共に、社会実装に繋がる挑戦的プロジェクトを推進します。
メッセージ
学問は本来、とても楽しいものです。その魅力を是非味わって下さい。医師や研究者といった職業としての役割も重要ですが、それ以上に学問を楽しみ、本物を目指してほしいのです。受験勉強の比重が大きいと、勉強は「机に向かう作業」や「クリアすべき課題」と捉えられがちです。しかし、実際にディスカッションを重ね、データや発見を仲間と分かち合う時間は、本当に楽しく、驚きと喜びに満ちています。人生を最大限に生き、自然と夢中になれるものに巡り会って下さい。無限の可能性を信じ、能力を惜しまず、本気を出してほしいと願っています。軽やかに、全員が本気を出せば、未来の医学?医療、Scienceはきっと大きく飛躍します。
趣味
父の影響で、クラシック音楽と阪神タイガースが好きです。中高は吹奏楽部、大学ではオーケストラで打楽器を担当していました。特にチャイコフスキーをはじめ、かっこいい曲や美しい曲が好きで、落ち着いたらピアノを再開するか、バイオリンを始めたいと思っています。ジム通いも再開する予定です。ガーデニングも趣味のひとつで、通常の観葉植物に加え、銀杏やヤマモモなどを種から育てています。また、美術館巡りも好きで、観る将でもあります。阪神タイガースファン歴 = 年齢です
関連する事業採用実績?受賞歴?特許 等
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 2025 – 2027年度
「栄養素と腸内細菌が制御する新しい免疫機構と大腸癌発症?進展メカニズムの解明」研究代表者
日本学術振興会 科学研究費助成事業 国際共同研究加速基金(国際先導研究) (2022 – 2028年度)「全身電子皮膚による人間のデジタル化」分担研究者(研究代表者:染谷 隆夫(東京大学))?
AMED ムーンショット型研究開発制度(2022-2027年度)「病院を家庭に、家庭で炎症コントロール」分担研究者(研究代表者:南学 正臣(東京大学)
受賞歴
2004年? 西田賞(香川大学)
2007年? 第10回日本病態栄養学会 研究奨励賞?会長賞
2009年? 第52回日本糖尿病学会年次学術集会 プレジデントポスター表彰
2009年? 第30回日本肥満学会 若手研究奨励賞(YIA)
2010年? 第24回日本糖尿病?肥満動物学会 若手研究奨励賞
2011年? 第4回FANTASY 最優秀ポスター賞
2011年? The 71st American Diabetes Association Scientific Sessions,
American Diabetes Association’s Young Investigator Travel Grant Award
2013年? 第14回日本内分泌学会 若手研究奨励賞(YIA)
2013年? Paper of the month, The Latest Science
2013年? 第3回Metabolism Scientific Forum, Metabolism and Cellular Organ Network
若手奨励賞2014年? The 9th Metabolic Syndrome, Type 2 Diabetes and Atherosclerosis Congress,
poster award2018年? 第38回2018年度日本内分泌学会 研究奨励賞
2018年? 2018年度日本肥満学会 学術奨励賞2019年? 日本糖尿病学会 リリー賞2022年? 日本糖尿病?肥満動物学会 研究賞
2025年? 科学研究費助成事業獲得に係る表彰(香川大学)
特許等
- 特許第6664632号「アディポネクチン受容体活性化化合物」
- 特許第3053911号「Activator of adiponectin receptor」
- 特許出願PCT/JP2023/039323「抗アディポネクチン受容体抗体及びその利用」他14件